心の中にある「光」


あけましておめでとうございます。

去年の年末に簡易裁判についてちょっと検索していたら、以下のような文章に出会いました。

僕が年を取るにつれて、失って来たものが、この中にあるような気がして、またそこに世の中に対する希望のようなものを感じたんですね。

文章自体は長いので、「ある和解 -日本裁判官ネットワーク」でお読みください。

一部だけ引用しておきます。

確かに,裁判官である以上,法を無視して感情の赴くままに判決をするわけにはいかない。しかし,法律的判断は判断として,それとは別に,当事者の感情や気持ちを真摯に受け止め,一緒に泣いたり笑ったりして,当事者の納得のいく解決というものを図るのは別段,構わないであろうし,むしろ,そちらこそが本来の使命というべきではないのか。そういう意味で,事実関係を確定し,法的判断についての心証を得た後,さらに原告にそのときの気持ちや感情を話して貰ったのは,正解であった。だからこそ,被告会社の人事担当者も和解に応じる気持ちになったのであろう。
ある和解 -日本裁判官ネットワーク


「あなたは,被告の会社から仕事を切られた,切られたと盛んに法廷でも言っておられましたが,実は,切られたのは仕事じゃなくて,あなたの心,職人としてのプライドだったのではありませんか。だから,あなたはこうして,裁判まで起こしたんでしょう。あなたが本当に欲しいのは,お金なんかじゃない,どうしても80万円が欲しいわけじゃない,それよりももっと大事なものがあなたの心の中にある,違いますか。」
 私が,多少,思い入れを込めて放った幾つかの言葉が彼の心をつかんだようだった。私が話し終わると,彼は大きくひとつため息をつき,天井を見上げた。肩が小刻みに震えている。向き直ると,彼の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。「そこまでわかっていただいているのであれば結構です。金額については,先生にお任せします。」
 彼が退室した後,司法委員が言った。「いやー,驚きましたな。彼は,この前の弁論準備の際には,80万円を1円もまけるつもりはない。もっと貰ってもいいぐらいだと言っていたのですよ。」
被告代理人弁護士と証人として出廷した被告会社の人事担当の専務を招き入れて,私は言った。「大根やにんじんじゃないんですから,人の仕事を切れば,血も涙も出ますよ。壊れたおもちゃを捨てるように,人を取り扱っちゃだめでしょう。人を使って仕事をする以上,こういうことにならないようにするには,どうしたらよいか,是非考えてみてください。今回は,いい勉強をしたという意味で,お金を出してもらえませんか。」私は,最後に重々しく,「和解の金額については,原告から一任を取り付けています。」と二人に告げた。
 被告代理人弁護士が目を見張って尋ねる。「・・・・本当ですか」「はい。」
 結局,被告会社が原告に対して,解決金の8万円を支払うこと,本件の和解内容については一切口外しないことで和解ができた。
 私は,原告に対して,最後に次のようなことを語った。
「この8万円が多いか,少ないか,私にはわかりません。人の気持ちをお金で示すのは難しいです。1億円でも不満な人もいれば,1万円で充分という人もいるでしょう。しかし,この8万円は,あなたが一生懸命,法廷で自分の気持ちを裁判官に向かって訴えかけ,その結果,受け取ることになったお金です。法律的にみれば,あなたの言い分は通らなかったかもしれない。しかし,私は,あなたの気持ちには無理からぬところがあると思ったから,被告会社に和解するように勧めました。会社も,あなたの言い分がまったく取るに足らない,バカバカしいものであったら,お金など払わないと思いますよ。あなたの言い分にも正しいところがあると思ったから,このお金を払うことにしたのだと私は思うのです。あなたは,このことを誇りに思っていいと思います。ただし,他人にあれこれと言ってはなりません。誇りは自分の胸のうちだけにしまって,今までのことはきれいさっぱり忘れて,また,明日からお仕事に頑張ってください。わかりましたね。」
ある和解 - 日本裁判官ネットワーク


何回も読みなおすと、
最初に感じたものが薄くなっていくんですが、
たぶん、頭で考えようとしたらそうなるのかもとは思いました。

原告の職人さんは、この裁判官の中に、光を感じたのは間違いないとは思う。

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